■ハッシュ−ハッシュ リアルタイムコラム/第四回

 皆様ごきげんよう。創刊より愛され続けて……、娯楽提供タブロイドなんてジャーナリズム
からはほどと遠い評価なのは気のせいですわよね? ハッシュ−ハッシュ記者のルピシア・ハウ・リアリムですわ。

 現場主義で記事を拾う、というリアルタイムコラムですけれど、よりよい記事を書き上げるのには時間がかかりますの。
 うっかりレコーダーを下水に落っことして、記憶を頼りにでっちあげるのに時間がかかった訳
ではありませんの。信じてくださいませ。


 さて、前回の続き、『外在魂と教会特区のいけない秘密』、再開ですわ。


「……なんだかいかがわしい響きが」


「読者の目を引く、いいコピーだと思いませんこと?」


「どちらかと言えば、下世話なタブロイドという世間の評価に近づいているような」


「あーあー聞こえませんわね。いいからとっととお話しくださいませ」


「事実から目を背けるジャーナリズムは問題だと思うけれど……、どこからだったかな」


「外在魂の文化的側面、からですの」


「肉体から魂を抽出する外在魂は、ただの技術という位置づけにとどまらなかった。
人間そのものに問題を投げかけるものだったんだ」


「問題?」


「歴史上、先鋭的な技術は既存の文化や慣習を大きく変えてきた。古くは地球が太陽の
回りを回る天動説がそうだ。地球と神を同一視していた文化を基本としていた
世界にとって、天動説は自分を否定されたも同然で、受け入れられるまでは
排斥運動が起こったと聞く」


「今では錠剤を飲めば実現できる臓器移植や、遺伝子の改造もそうですのね」


「そう。外在魂も人間の思想にとって大きな変更を迫るものだ」


「変更とは?」


「人間の定義に対する変更だ。ルピシアは人間をどう定義する?」


「……外界と区別する構造を持つ、といった通り一遍な答えを期待している訳ではありませんのね」


「外在魂が発見される前は、脳こそが人間を象徴する場所だった。
しかし、外在魂によって魂を分離し、別の身体に移したところ、知識や
経験は受け継がれてしまった。
さて、こうなると、どういう条件があれば人間と呼べるのか怪しくなってくる」


「単純に魂を人間と呼べばいいのでは?」


「魂だけで、肉体を持っていない場合は? 
機械の身体に魂を移した場合は? 
動物の形をした身体に魂を移した場合は?」


「ええと……、人間とは、呼べ、るのでしょうか?」


「通信のできない魂を人間と呼ぶことができるかどうかは、
人によるだろうね。ここで、人間の定義は分散した」


「けれど、人間は集団を好む生き物ですわ」


「そう。人間はあいまいなものがあれば、説得されたがる場合がある。
ある程度納得のゆく定義を与えてくれる場所を求めた」


「それが、教会特区ですのね」


「宗教や神を縮小へ追いこんだ科学技術が、教会特区という魂の定義を
もたらす教義を生み出した、というのは面白い話だ」


「科学が魂を扱うことで、逆に非科学的なものが問題として立ちあがる、
というのは興味深いですの」


「かくして、教会特区は閉鎖施設ルーデシアで最大の権力を持つ集団と
なった。これでいい?」


「ええ、インタビューに答えてくださって感謝いたしますの、ヤオ」


「僕は仕事があるからこれで――」


「――待ったですの!」


 というわけで、第四回、今宵はここまでにいたしとうございますわ。
 我ながら抜群の引きとほれぼれしてしまいますことよわ。
これで次回の更新でわたくしに大量の小銭が……、取材資金とさせていただきます。


 今回はエレガントに、ここまでとさせていただきます。
 前回までのような失態を犯したりはしませんの。わたくし、反省する女ですわね。
 それではごきげんよう!


 ……ふぅ、やっと終わりましたの。
 さてヤオ、クルスやルーデシアなんて合成ミルク臭い小娘は放っておいて、
わたくしと紳士と淑女の時間を……(以下ヤオを口説く4万文字ぶんの
テキストをノーカットで放送)。